企業の未公開情報をもとに株を売買する「インサイダー取引」。この違法な取引をした罪で、32歳の男が東京地検特捜部に起訴された。名前は佐藤壮一郎被告、裁判官だった。出向先の金融庁で知った企業の未発表の重要情報をもとに繰り返し「インサイダー取引」に手を染めた。その数は、半年で10回。「強い目的意識に取り憑かれ、違法性の認識が薄れ、考えなくなっていた」。法廷でこう語った佐藤被告。高い職業倫理が求められる“法の番人”が「インサイダー取引」から抜け出せなくなった理由とは──。
佐藤壮一郎被告(32)は2019年、27歳のときに裁判官に任官した。裁判官として、大阪地裁や那覇地裁で勤務。妻と幼い子供がいた。
2024年の春、佐藤被告の職場環境に変化が訪れる。裁判所から金融庁への出向を命じられたのだ。主に10年未満の裁判官を対象に、経験を積ませるために省庁に出向させる制度での異動だった。
出向先は「金融庁企画市場局企業開示課」――企業の公表前の開示情報を審査・監督する部署だった。
佐藤被告が課長補佐として出向したのは「企業開示課」の中にある法曹資格のある者によって構成されたチームだ。企業が提出する予定の株式の公開買い付け(TOB)の届け出書を事前にチェックし、法的な問題点がないかを審査する役割を担っていた。つまり、企業のTOB情報を公表前に知ることとなったのだ。
ある企業が別の企業の株を一気に買い上げる買収手段のひとつであるTOBは、株価に大きな影響を与える重要情報のひとつ。チームの一員となった佐藤被告は、異動から数日後には複数の会社のTOB情報がまとめられた「案件管理リスト」の閲覧権限を与えられた。リストには、企業名はもちろん、今後公開買い付けをする期間や金額も書かれていた。
出向から約2週間がたったある日。佐藤被告は業務用パソコンから「案件管理リスト」を閲覧しながら考えていた。(冒頭陳述より)
“TOBを担当することになったが知識がない株主の立場で体験して仕組みを知りたい”(被告人質問より)
佐藤被告は、リストの中からTOBによって今後株価の上昇が見込まれそうな企業を見つけると、計100株を買い付けた。株券の購入は最低100株から。つまり、佐藤被告が買い付けたのは、最小単位だった。約2週間後、TOBの情報が正式に公表されると株を売却。手元には利益が残った。
*1回目 100株(29万円)購入(4月)→約36万円で売却 こちらで最新の株価情報をご覧ください。株価掲示板で日経平均株価掲示板の詳細もチェック!