経営学者の野中郁次郎氏は、彼の最後の著作『二項動態経営』で、日本の企業が直面している課題について深く掘り下げました。同書は一橋大学大学院教授である野間幹晴氏との共同研究に基づいており、特に日本企業における過少なリスクテイク問題とその背景にある退職給付債務の存在を指摘しています。
実証研究によると、日本の上場企業では配当が行われる割合が高い一方で、米国よりも研究開発投資を削減する傾向が見られます。この矛盾は、日本とアメリカの企業年金制度の違いに原因があると考えられています。野間氏は『退職給付に係る負債と企業行動』で、日本の確定給付年金制度が経営者に対してリスクテイクを抑制する要因であることを示しています。
日本では企業倒産時に退職給付債務の保証がないため、経営者は安全運転に重点を置く傾向があります。これに対し、米国は倒産時でも年金給付が保護される仕組みがあるため、企業はより積極的に投資や技術革新を行うことができます。
この研究は、日本の企業がイノベーションを阻害する環境にあることを示唆しています。一方で、日本の企業内では継続的な技術開発が行われやすい反面、他社への技術移転が抑制される傾向があります。